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アイソレーションタンク(フローティングタンク)体験談-錯覚する脳(7)

著者である慶応義塾大学大学院教授の前野隆司氏の体験と考察。その2

聴覚

つぎに聴覚について比べよう。
私が(感覚遮断タンク)アイソレーションタンクを体験してみたいと思った理由の一つは、心臓やまばたきの音がよく聞こえるほどの静寂とはどんなものなのか、体験したみたいという好奇心だった。
感覚遮断タンクのホームページに載っている体験談を読むと、多くの人が「心臓の鼓動が聞こえた」「まばたきの音が聞こえた」と書いていたからだ。
どんな静寂なのだろう、と期待して実際に体験してみると、A君も言っていたように、確かにどくんどくんという心臓の音がよく聞こえた。また、バチバチというまばたきの音もずっしりと耳に響いた。

幻聴?
驚いたのは、B君やC君の聞いた音(や、見た映像)だ。B君は、頭の中でいろいろな会話や歌が錯綜して聞こえたという。C君も、友達の姿や声、ゲームの映像や音楽、それ以前の記憶などが、あたかも現在体験しているかのように、かなりクリアに思い出せたという。しかし、ふたりとも、それは幻聴ではなく、あきらかに心の中から湧き上がってきたものだという。
いや、心の中から湧き上がってきたように感じようと、外から聞こえてきたように感じようと、現実には存在しない音が聞こえてくる場合をひっくるめて幻聴というのではないか、という気もする。
日常的に、あるいは、タンクの中で、心の中から音がクリアに湧き上がってくることは割と多くの人にとって起こりうることのようだ。ただし、いずれの場合も、明確に、現実の音とは違い、頭の中から湧き上がってきた音だと自覚している点で共通している。
そういう意味では、脳が作った音を現実の音と区別できない場合を幻聴といい、区別できる場合はそう呼ばないのかもしれない。
いずれにせよ、触覚のところで述べたように、人間は、自分の感覚が普通で、他人も同じように感じているのではないかと思い込みがちだが、人間のクオリアの感じ方は、人によってかなり異なっているようなのだ。

まぶた
さて、私のタンク体験の話に戻り、次に視覚を吟味してみよう。
タンクの中では、もちろん、視覚は遮断されているので、完全な闇だ。
A君は、真っ暗闇のタンクの中では、まぶたを開いているのか閉じているのかもわからなくなったと言っていた。したがって、「景色が見えているからまぶたは開いている」というように感じているのだろうと述べていた。
しかし、私の場合は、まぶたを開いたか閉じたかは明らかにわかった。目の筋肉のところにある受容器が敏感なのか、とにかく、開けているのかとじているのかが明確に意識できた。
私の場合、幻聴同様、幻覚(幻視)も生じなかった。うっすらとオーロラのような光が見えるような気はした。しかし、耳鳴りと同様、歳をとって脳が壊れ始めたせいか、日常生活時にも、たとえば眠る直前にまぶたを閉じてボーッとしていると、おなじようなうっすらとした光は見える。これを幻覚とよぶなら幻覚だろうが、視神経のノイズといったほうが適切な気がする。
これに対しC君は、先ほども触れたように、友達の姿やゲームの映像、それ以前の記憶などが、あたかも現在体験しているかのように、友達の姿やゲームの映像、それ以前の記憶などが、あたかも現在体験しているかのように、かなりクリアに映像として出現したようだ。これは私から見ると幻覚のようだが、C君自身は以下のように言っている。「ぼくの頭に浮かんできたクリアなイメージを、僕は完全に記憶だと思ってしまったため、幻覚・幻視なのだとは思いませんでしたが、視聴覚がはっきりした状態で、あのくらい強烈な映像・音声記憶がよみがえったら、幻覚・幻視だと思うかも知れません・」
先ほど幻聴の話と同じく、これが広義の幻覚ではないか、という気がしないでもないが、C君によれば、これは心から湧き上がってきた鮮やかな映像なのであって幻覚ではないらしい。そこで、ここでは、幻聴の場合と同様、現実の視覚情報とは違うと自覚している場合は、幻聴ではないと考えるようにしました。

続く

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